2025年7月20日日曜日

高 原

 

高 原

 

俺は映画でも見ていたのだろうか?

目の前には、SF映画の一場面のような光景が広がっていた。高速道路を走る車窓からは、両側に林立する、およそ100mはあろうかという巨大な円錐形の岩石が次々と流れていく。まるで鍾乳洞を逆さまにしたような、奇妙で荒涼とした風景だ。ここは高原の上らしいが、一体全体どこなんだ?

俺たちは公害対策Gメンのようなものらしい。今頃公害対策なのかとも思うが、そもそも正式名称を俺は知らない。皆、同じく草臥れた防災服のような灰色の制服を着ている。両肩にペンなどが差せるポケットがあるやつだな。一応正式にはネクタイ着用の義務があるが、誰もそれを守らず襟元はだらしなく開かれている。

チームは5人。中年ではあるが、頼れるチーフの電光、お腹がでかい。若手だが切れ者のセカンド、発烈はメッシュに入った長い髪をなびかせている。頬に三本髭のタトゥを入れピアスも派手に付けている。コンピュータ操作が専門のエンジニア、弱冠16歳の電信。中学卒業時に既にアメリカの大学の理数学部での卒業認定をもらっている切れ者だ。ちなみにロングヘアにメタルフレイムの眼鏡をかけた女子だ。そしてもう一人女子。ショートカットが凛々しいスポーツ万能。高校時代は陸上、短距離で、大学時代は格闘技で日本大会まで行ったという、渦巻……いや、渦潮だったか? いや、潮吹だったか、いや、それはいくら何でも違うだろうな。俺は自分の記憶の曖昧さに戸惑う。

じゃあ、俺は何ができるか? 何もできない。奇妙だな。

「しっかりしなっせ!」

突然、隣に座っていた渦潮に肩を叩かれた。痛い。何故、突然叩かれたのかよく分からない。だが、それ以上に嬉しい。そもそも、彼女が隣に座っているだけで俺は浮かれていた。

つまり、運転席:電光、助手席:発烈、後部座席、右から電信(彼女の前には電子頭脳のモニターとキーボードがある)、真ん中:俺、左:渦潮、という訳だ。つまり、これは忍者部隊のようなネーミングの発想になっているんだろうな。では、俺は誰か? 分からない。誰かが俺を呼んでくれるまで、分からないのだ。

視線の先に、いくつもの巨大な竜巻が迫ってくる。黄砂と排気ガスが原因だという。ということは、ここはあの黄土高原なのか? どうやってこんなところまで来たのか、まったく記憶がない。そもそも、どうして俺はこんな公害Gメン的な組織に入隊したんだろうか? 正式名称すら思い出せないなんて、我ながら情けない。

「科学技術庁長官の不知火博士が竜巻を止める薬を発見した、発明ではなく発見だ」

電光が静かに呟いた。発見したことの意味は説明されなかった。

「……ということは、我々は科学技術庁の職員なんですか?」

俺の問いに、誰も答えない。沈黙が重く圧し掛かる。しばらくして、電光がポツリと「嘱託だ」とつぶやいた。渦潮が「給料上がんねーかな?」と、それに続く。なるほど、そういうことか。人手不足で、よくわからないGメン的な組織に引き抜かれたって訳か。

「行くぞ!」

電光の叫び声が車内に響く。

「つかまって!」

渦潮の声が重なった。電信が電磁頭脳で計算をしている(ようだ)。そもそも電信は口を利いてくれない。

竜巻が目前に迫る。発烈が窓から身を乗り出し、何本もの吹き矢を竜巻に放った。火花が散る。爆音と衝撃音が連続する。公害Gメン的なモービルは、衝撃で激しく揺さぶられた。俺は思わず、隣の渦潮の膝に抱きつく。

バシッ!

容赦ない音がして、顔が熱くなった。渦潮に叩かれたのだ。

すると、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。竜巻は突然上下反転し、巨大な円錐形に凝固していく。まるで時が止まったかのように、動きを止めた竜巻は、やがて黄土高原にそびえ立つ岩石の一つと化した。

これが、黄土高原に多く見られる多円錐波状地形の由来である――

発烈と渦潮は次々と吹き矢を放ち、竜巻を円錐へと凝固させていった。

高 原

🐤

①1599字(400字詰め原稿用紙換算4枚) 

20250714 2002

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